けいこの思い出

私の名前はけいこと言うのだけれど、私が生まれた頃には、この名前の女の子はクラスに2、3人は必ずいた。 どこにでもある平凡な名前で、少女漫画の主人公にはいないけど、その主人公の友達とかによくつけられていた名前だった。

想像がつくだろうけど、この名前を持つと、知り合いからは、けいちゃん、と呼ばれることが多い。 ただ私の場合は、そう呼ばれるのは、父のお店で働く店員さんとか、ご近所の大人の人からだけで、学校でそう呼ばれることは一度もなかった。

私は人気のない子供、生徒だった。 クラス内には、必ず別のけいこさんがいるので、そのけいちゃんという愛称は、私以外の人気のあるけいこさんに取られてしまうのだ。 その代わりに、嫌な響きの嫌なあだ名で呼ばれることがよくあった。 

それだけでなく、若いなりに処世術は必要だったので、6年間、人気のあった方のけいこさんを、自分もけいちゃんと呼んで過ごした。 ヘラヘラ笑って、そうしていたように記憶している。けいちゃん、と呼ばれる称号を奪還しようなんて、夢は見ない。気持ちが悪いとか、情けないとか、思ったことがなかった。 そのような感覚はとうに鈍っていたからだけど、卑屈な思いは顔に出ていたようで、けいちゃん、と、他の人の前で、他の人を呼び続けても、友達はできなかった。

ちょっと悲しい思い出である。