名前の話。

私の名前は実は二度目の名前です。 どういうわけか、最初に付けられた方の名前で呼ばれたことを全く覚えてない。 そもそも呼ばれなかったのだろうか。 戸籍を見ると改名の記録は私が6歳になった年だ。 でも呼ばれた記憶がないので、実際は二度目の名前は、もっと早くから使われていたに違いない。

うんと大きくなってから、母に聞いた話だけど、私は帝王切開で生まれたので、母は入院を長くして、父が勝手に市役所に届けたらしい。 で、ここからが凄い話なのだが、どうも、その名前は、父が仲良くしていた飲み屋のお姉さんの名前だったらしい。 それで、母は怒り心頭して、その名前を変えることにしたそうだ。 晩年の母からは想像もつかないけど、若い頃はパワフルな人だったのだ。改名のために、裁判所まで行かなきゃならなかったそうだ。

想像がつくと思うけれど、父と母の仲はずっと悪かった。私と父の仲もずっと悪かった。尊敬する人、両親、なんていう素直なメンタリティーを持ったことが一度もなかったし、尊敬する人、両親、なんて言う人は、苦手だった。 こんなことがあなた方の人生に起こらないことを願います。 

女性にこの話をすると、げっ、なんて酷い男、と言い、男性にこの話をすると、げっ、なんて執念深い女、と言う。自分はこの話を聞いた時、本当に気が滅入ったのだけど、それからもっと後年に、柴門ふみさんのあまり有名でない漫画を読んだら、これを上回る話が載っていた。その話では、女性の方が夫の浮気を嗅ぎつけて、相手を探し出して、自分の産んだ女の赤ん坊に、その相手の名前を自分で付けるのだ。なぜかというと、その名前をずっと呼び続けることによって、夫に罪悪感を持たせる為だ。

ここまで来ると、私や母のレベルはまだまだ人間的でかわいいものだ、と思える。そうやって、私の家庭環境不幸は、上書きされ、ないことになったのだ。